05/07/07更新

ボーナス転職の真実

「ボーナスをもらってから転職」とは誰もが考えることだが、安易な行動は思わぬケガにつながりかねない。現在勤める会社のボーナスが「どんな報酬制度に属している」ボーナスであるのかを良く見極めた上で、慎重な行動が求められるのだ。

(取材・文 / 中村京介)

ボーナスはバブル以来の高い伸び

今年もボーナスの季節がやって来た。(財)労務行政研究所の調査によると、一部上場企業の今夏のボーナスは、企業の業績回復を背景に、バブル末期の1990年以降では、2番目に高い対前年比5・2%増の伸び率となっている。一方、第一生命経済研究所が調査した中小企業も含む全体のデータでも、2・4%の増加となっている。

IT業界は依然として激しい価格競争にさらされており、全業種の中で目立ってボーナスが伸びたという話は聞こえてこないものの、「どうせ会社を辞めるならボーナスをもらってから……」とは、転職者の誰もが考えるところ。ただ、ここ数年、給与体系の大幅な見直しが進むにつれ、そのような考え自体、変化を見せ始めてきている。

早めの意思表示で、ボーナスが減額に……

まずは、ITベンチャーに勤務する藤原信氏(仮名・31歳)と、国内大手メーカーに勤務する斉藤明彦氏(仮名・29歳)のケースを考えてみよう。藤原氏が勤務する会社は、新興といっても、IT業界では既にエスタブリッシュされており、大手の一角を占めている。

とはいえ、いまだベンチャーの名残を強く残しており、報酬は年俸制。具体的には、年俸を16分割した額が毎月の給料として支払われ、夏・冬に2カ月分ずつが「形式的」なボーナスとして支払われる。

純粋な意味での「ボーナス」は、業績に連動して支払われる「決算賞与」だ。近年の業績好調を背景に、この決算賞与は、夏・冬のボーナス額を上回る。

一方、伝統的な国内大手メーカーに勤める斉藤氏の場合、決算賞与というものはなく、夏・冬に支給されるボーナスが名実ともに「ボーナス」である。このボーナスは、最低保障額は決まっているものの、それを上回る部分は上司の査定によって変動し、同期入社の社員でも、最大30万円ほどの差が出るようになる。

この2人では、「ボーナス転職」への対応はかなり異なっている。まず、退職の意思を会社に通告する時期。藤原氏の場合、転職先から内定を獲得後、すぐに上司に退職の意思を伝えた。

ボーナス支給日の約1カ月前のことだ。

「年俸制なので、夏のボーナスというのはあくまで年俸の一部であり、当然の権利。『満額もらって当たり前』なので、正直、『ボーナスをもらった』という喜びはまったくありません。ただ、経済効率を考えれば、ボーナスを手にした直後に、次の会社に転職するのが一番いい。現在の会社でも、次の会社でも、ボーナスはいわゆるPro-rateになっていて、在籍期間に対応して支給されるものです。

入社が遅れれば、それだけ次の会社でもらうボーナスも減額されてしまいますので……」

これに対し、斉藤氏の場合、藤原氏と同じように振る舞うのはリスクがあると言える。斉藤氏にとって、夏のボーナスは年俸の一部ではなく、業績や評価に連動した純粋な意味での「ボーナス」。従って、もしボーナス前に退職の意向を会社に伝えれば、減額されてしまうことが十分にあり得る。会社側としては、「仕事を辞める社員に高額のボーナスを払う必要はない」というのが本音であるからだ。

ただ、会社側がそれを口に出して言うことはもちろんない。あくまで「査定の結果」を表向きの理由にしてくるはず。ボーナス額について文句を言っても、それが受け入れられるのは非常に困難なのが現実だ。斉藤氏がこの夏のボーナス額にこだわるのであれば、退職の意思は、ボーナスを手にした後に示すのがベターと言える。

実際、7月上旬にボーナスが支給されるので、一月近く前に転職先から内定をもらっているにもかかわらず、「いまだ会社に退職の意思表示をしていない」という。

前職時代の上司に“質問メール”も

なお、稀なケースではあるが、なかには、ボーナスをもらった後に退職の意思を告げたにも関わらず、ボーナスの一部返還を求められたケースもある。これは、就業規則上、ボーナス支給後の一定期日における在籍が、支給要件とされていたためだ。あまり見られないケースとは言え、ボーナス後の退職を考えている人は、就業規則くらいはチェックしておくべきだろう

以上の点からすると、ボーナスをもらってから、2~3週間経ってから退職の意思を告げ、さらにその2~4週間後に退職するというスケジュールが“基本パターン“と言えそうだ。さすがにボーナス支給日直後の意思表示はあまりにもミエミエで、会社側もいい気はしないだろう。

企業によっては、採用プロセスとして、採用予定者の前職での評判をチェックするために、

かつての上司に質問メールを送るようなケースがたまにある。従って、上司などとの関係を悪化させる形での転職はリスキーだ。ボーナス支給日に退職の意思を告げるような“非礼”は避けておいた方が無難だろう。

直属上司に“詐欺”とののしられる始末

澤井淳氏(仮名・27歳)は、地方テレビ局の社会部の元記者。旧帝国大学の工学部を卒業後、地方テレビ局へと就職。しかし、警察署、消防署回り、さらには泥棒の張り込みなど、連日の激務に疲れ果て、転職を決意した。地方という立地と、日頃の激務で転職活動もままならなかったので、とりあえず退職し、出身地の東京に帰ることにした。

「次の夏のボーナスをもらったらすぐに会社を辞めよう」。数カ月前からそう決意していた澤井氏は、ボーナス支給日当日、上司への告白に踏み切った。以下、その時の会話を再現しよう。

部長 「澤井君、夏のボーナスはまずまずだっただろう? 日ごろ、君は頑張っているから、査定を高めに設定しておいたぞ。 これからも仕事頑張ってくれよ」

澤井 「あの、その仕事のことなんですが……」

部長 「どうした、何でも相談に乗るぞ」

澤井 「あの、会社辞めたいんですけど」

部長 「何だと?貴様、ボーナスをもらってその日に辞めるとはどういうことだ?退職する気があるなら、何でもっと早く言わなかった?これじゃまるで”詐欺”じゃないか!」

澤井 「……」

“立つ鳥跡を濁さず”の
精神を忘れるな!

その後、澤井氏の退職は認められ、またボーナスの返還を求められるようなこともなかった。しかし、退職までの2週間を、「まるで針のムシロ。これまでの人生で最も長い2週間だった」と振り返る。

最近の若者は転職にドライと言われるが、退職の意思表示の相手方である上司には古い考えの人も多い。労働法上は、退職前2週間の意思表示をもって退職が認められることになってはいるものの、無用のトラブルを避けるためにも、社会人として、常識ある行動を心掛けておくべきだろう。特に、同業あるいは類似業界に転職する場合には、かつての上司や同僚と再び仕事で絡むようなことも十分あり得るだけに、ボーナス転職は“立つ鳥跡を濁さず”の精神で臨みたいところだ。

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